森林研究・フィールドトレーニング参加学生が研究発表を行いました

「森林研究・フィールドトレーニング『生き物たちのつながり』の生態学in南紀熊野」を受講した宇都宮大学3年生の田鳥さんが、コース中に取り組んだ研究内容について学会発表を行いました。

発表タイトルは「蜘蛛網を用いた広葉樹植林地の虫害予報」です。

(田鳥奈々子、内海俊介、中村誠宏、竹田努 「野生動物と社会」学会 2018年11月)

 

本トレーニングコースの特徴は、1)フィールドにおける自身の「気づき」から「仮説」を立て、2)それを検証するための計画を立案し、3)実際にデータを収集して解析、最後に4)結果をまとめて研究発表を行う、という一連の取り組みを体験できることにあります。たった5日間ですが、講師のアドバイスはもちろん、参加者全員でのディスカッションをさかんにかわし、受講生はみなここまでやります。さらに田鳥さんは、トレーニングから帰った後も統計ソフトウェアRによるデータ解析に取り組み、研究発表ポスターも作成し、初めて学会発表をするという挑戦をしました。

 

研究内容を紹介します。

和歌山研究林の近くにあるコナラ植林地を見学した際、ジョロウグモの網が数多くあること、そして、その空間分布に不均一性がありそうなことに田鳥さんは気がつきました。それを扱った研究ができないかと考え、思いついた仮説が「ジョロウグモの網の空間分布はコナラの葉の食害と関連しており、食害が多い木ほど網が張られやすいのではないか」というものでした。

 

さらに、その仮説について、以下のような位置づけも考えました。

「植林地では植食性昆虫による大規模な食害をしばしば受ける。そのため、これを早期発見することが重要な課題であるが、そのための調査には大きなコストがかかる。そこで本研究では、ジョロウグモ(Nephila clavata)の網に注目し、網の有無や量から植栽されたコナラが受ける食害程度を簡便に予測できるかどうかを検証する。」

 

 

 

そこで、この植栽地において、クモの巣のある有網区とクモの巣のない無網区を6か所ずつ設置し、葉を無作為に収集して葉の被食率や葉の厚さを計測しました。枚数にして、500枚以上!そのほかにも、クモの個体数や網のサイズ、コナラの胸高直径なども記録していきます。 

それらの結果を解析すると、予測通り、有網区では被食率が有意に高いことがわかりました。さらに、被食率が高い場所ほど、網の数も増加するという傾向も検出されました。一方、葉の厚さや胸高直径などの植物の特性と被食率の間には明瞭な関係性はみられませんでした。これらのことから、何らかの要因によって植食性昆虫による食害圧が高くなる場所にクモが網を張っていることがわかり(ボトムアップ)、クモの網の空間分布をみるだけで今ダメージをより多く受けつつある樹木を的確に把握できるかもしれないという可能性が示されました。

 

濃密な5日間のトレーニングで発見した研究結果を、学会で多くの人に「伝える」というところまで自主的に取り組むことができたのは、本当に素晴らしい頑張りだと思います。この経験はこれからも大いに役立つはずです。 (文責:内海)